ごあいさつ

明治29年(1896年)に、私たちの曽祖父がこの地に家を持ってから、1と4分の1世紀になります。
電気もガスもない時代に建った家に、10年ほど前まで伯母と伯父が、ほとんど昔のままの暮らし方で住んでいました。そのおかげで、今の時代には貴重な古い家が残されました。

曽祖父はお百姓でしたから、畑を持ち屋敷まわりの庭もずいぶん広かったのですが、これだけでも残せたのは幸いでした。祖父がなくなってからは手入れが行き届かず、いつもフキをはじめ野の草に覆われていますが、庭のある家がだんだん少なくなってきた住宅街の中で、貴重な緑のスペースになりました。

家は痛みがひどいので、住む人がいなくなったら壊すつもりでしたが、訪れた友人たちの「座っているだけで心が安らぐ。こんなに素敵な場所をいつまでも残して!」という声に励まされて、みなさまに使っていただきながら維持していくことにいたしました。

残す決意を固めてからもいろいろなことがありましたが、多くの出会いがあり、心強い仲間を得てここまでたどりつきました。

私たちに巡ってきた不思議な幸運を、みなさまにも味わっていただければと思います。

本江聖美 黒川晴美